武士の亡霊(神奈川県鎌倉市) | コワイハナシ47

武士の亡霊(神奈川県鎌倉市)

古都鎌倉───

鎌倉時代には、日本の武士政権において最も重要な位置のひとつを占めていました。12世紀末から14世紀半ばの1333年まで源頼朝が開いた鎌倉幕府が置かれ、鎌倉の歴史なくして神奈川の歴史なしと言われる程の歴史都市鎌倉。

その歴史に比例して多くの古刹、名社もその魅力のひとつです。

神奈川県に住んだら誰もが一度は訪れてみたい鎌倉。私もそのひとりだったので、高校生だった当時の私は友人と鎌倉めぐりをよく楽しんでいました。

その時私とIちゃん2人は休日を利用して、鎌倉の寺社に参拝に来ていました。

私もIちゃんも寺社仏閣を廻るのが好きで、おまけに歴史好き。世に言う歴女というやつなので、鎌倉はうってつけの場所でした。

いくつかの寺社をめぐり、K寺に着いた時のことです。

Iちゃんが、

「おトイレ」

と言い出したので「きっと境内にあると思うから行ってきなよ。私ここで待っているから」と私ひとりでIちゃんを待つことにしました。

しかしK寺は、鎌倉の寺院の中でも比較的広く、このままIちゃんを待っているのはもったいないと思い、ひとりで敷地内を散策することにしたのです。

そして、フラッとある場所に足を踏み入れたのです。

そこには一面に墓地が広がっていました。

見渡す限りの墓石に圧倒されながら、私は一歩足を前に出したのです。

「うわぁ凄い」

無数に広がる古びた今の墓石とは違った形の宝篋印塔ほうきょういんとうと呼ばれる仏塔は、どこか遺跡のようで感動を覚えました。

そうして、見とれていると私の周りから

ガサッガサッ

という草を揺らすような音が聞こえてくるので、猫ちゃんでもいるのかなぁ?

と思い仏塔の辺りを見てみたら……。

お侍さん姿の人たちが私を取り囲みこちらをじーっと見ているのです。

「ううううーーーーッ」

あまりの驚きで大きな声を上げることが出来ません。心臓はドキドキバクバクして

「どうしようどうしよう……」

と足が震えてくるのです。

私はいつの間にか囲まれていました。

引き返すにも怖くて無理……と思った私は、

このまま進んで出口に行くしかないと思って足を進めました。

一歩前へ。

私が一歩足を前に出すと、私を取り囲んでいた人たちが一歩下がるのです。

また一歩前へ。

ガサッ。

一歩前へ。

ガサッ。

という風に。

それで、あ、この人達は私を襲う気はないのかなぁ、と判断してそのまま出口を目指すことにしたのです。

けれど、墓所内は無数の墓石で迷路のようになっていて、なかなか出口が見つからないのです。

「どうしよ……どうしよ……」

私の心は焦りと不安でいっぱいになり、冷や汗がビッショリ出てくるのです。

ここを出ないといけませんから、足だけは前へ前へとそれだけを考えて、それだけしか考えないようにするのです。

そうこうしているうちに、墓石を見てみると、私はトンデモない光景を目にしてしまったのです。

なんと、墓石の下から、スーッと起き上がるようにして出てくる武士の霊を。

そして、次々に墓石の下からスーッと起き上がって出てくるのです。

そして、武士のみならず、着物を着た女性までもが、墓石の下から起き上がって、顔だけを私に向けて、私を見るやいなや墓石を伝い、這うようにしてこちらへ向かってくるのです。

「イヤーーーーッ」

信じられません。白昼堂々です。

こんな光景を視てしまうなんて……。

今でも信じられません。

さっきまで普通に寝ていた人が、いつもと同じように起きるように、無数の亡霊たちがスーッと起きるのです。

今、思い返してみると、男性より女性の方がゆっくり起き上がっていたように思います。

そんな人達を目にして、思いっきり走り回って出口を探したかったのですが、頭の中で

「走るんじゃない。ゆっくり一歩ずつ進みなさい」

と声が聞こえてきたので、これは走ってはいけない、少しずつ歩こう。

と、焦る気持ちを我慢してまた一歩ずつゆっくり進んだのです。

そして、ようやく出口を示す鉄の門柱が目に入ったので、

「助かった……」

と心の底からほっとして無事に墓所から脱出することができたのです。

墓所から出た所でIちゃんが私を待っていました。

「もーーどこ行っちゃったのかと思って探しんだからねー。でも、なんとなくここなんじゃないかなぁーと思ってここで待ってた」

と不思議と出口に居たIちゃんに私は、

「そうなんだぁ。ごめんね」

と苦笑いするしかなかったのです。

墓所を出てからは、武士たちの霊はついてくることはなく私達の鎌倉見物は終了したのです。

今考えてみると、あそこで私がひとりになり、たまたま墓所に入ってしまったことは何だか偶然ではない気がしてなりません。

なぜなら普段墓地は鍵がかかっていて、誰でも入れるようにはなっていなかったのです。

偶然に鍵が開いていたのでしょうか……。

私はあの武士たちの亡霊に呼ばれたような気がするのです。

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