霊能力の才能開花(長崎県) | コワイハナシ47

霊能力の才能開花(長崎県)

名倉君と巻田君の修学旅行は五日目、最後の晩を迎えた。

市松人形の宿を離れ、翌日は一日自由行動だった。あちこち見物して歩いた後、巻田君達は夕方になって最後の宿となるホテルに到着した。

前日の武家屋敷旅館も異様だったが、そのホテルの立地も、踏み込むには相当覚悟がいる場所だった。ホテルは山頂に建っていたのだが、そこに続く途中の山道は両脇が墓場だったのだ。巻田君は溜め息が出そうだった。

「……修学旅行なのに、何でこんなヤバそうな宿ばっかり……」

「安かったんだろ」

名倉君はいつもの調子だった。

夜は前日同様二部屋に分けられた。もちろん、引率の先生達が疲れ果てて眠りに就くのを見計らった同級生達は、一方の部屋に集まって旅の最後の酒宴を楽しんでいた。

昨日、怪談ごっこをやったメンバーのうち、巻田君、名倉君、田中君、土屋君の四人は、もう一方の部屋で昨夜の出来事について話していた。巻田君は、あの原因不明の現象のことが気になって仕方がなかった。

「なあ、名倉。昨日のアレは何だったんだろうな」

「あんなのひやかしだよ、ひやかし。悪意はないって。おまえが撮った写真、多分女の子の霊か人形みたいなのが写ってるはずだぜ」

名倉君の語調がいつもと違う。

「それよりおまえ、昨日のこと気にしてる場合じゃないよ。今のほうがヤバいって。昨日の旅館よりここのほうがずっと怖い」

こと心霊絡みで名倉君の口から「怖い」という言葉が出てきたのを聞いたのは、もしかしたらこれが初めてかもしれない。

「何で?」と訊くと、名倉君は虚空から目を離さずに言った。

「いっぱいいるんだよ。悪い奴か善い奴かはわからないけど、とにかくいっぱい集まってきた。外に人魂見えるぜ」

「ええっ!」

名倉君に促されて窓の外を見た途端、巻田君の背中に例の脊髄が抜けていくような悪寒が走った。来る!三メートルくらいの杉の木の中ほどに、丸い光の玉が二~三個ふわふわと浮いているのが見えた。

「まずいなぁ……」

時計が二時半を指している。旅行の最終日で疲れが出たのか、他の生徒達は騒ぎ疲れてほとんど眠りに就いていた。すっかり怖くなった巻田君は、この状況から眠りの世界に逃れたかった。

「明日は早いし、俺もう寝るわ」

「寝ないほうがいいよ、今は」

名倉君の表情が強張っていた。

「すげーいっぱいいるから。寝入りばなは無防備になるからな。危険だよ」

名倉君の言う危険が何を指すのかは、長い付き合いになる巻田君には説明不要だった。何かヤバいものがこの部屋に満ちているのは間違いない。巻田君と土屋君は声を揃えて名倉君に縋った。

「何とかしろよ、名倉!」

名倉君はバッグから塩を出してきて、自分達の布団の四隅に盛り塩をすると、ちょっとした結界を張った。土屋君はほっとした顔で額の嫌な汗を拭った。

「これで入ってこないのかよ」

「うん。入ってこない。でもまだ寝ないほうがいいよ。こちらに意識を向けてきてるから。何かごちゃごちゃ言ってるけど、何を言ってるかはよくわからないんだ」

膠着状態だ。向こうからはこちらが見えているのに、こちらから向こうが見えているのは名倉君だけだった。

〈名倉だけ見えるのはずるいよな〉

何故かそんな気持ちになった。土屋君も同様のようだった。

「なあ、名倉。おまえには見えてんだよな。奴らどこにいる?」

名倉君は、そこ、あそこ、こっち、そっちとテレビの上や窓の辺りを無言のまま次々に指さした。

「おいおい、そんなにいるのかよ。そいつら俺達には見えないのかな、やっぱ」

「見たいのか?」

名倉君はしばらく考えると、ニヤリと笑って窓を指さした。

「巻田、あそこの窓をじっと見ててみな」

窓は六枚あった。言われるがままに名倉君が指さした左から三枚目の窓を目を凝らして見つめていると、ぼんやりと女の上半身らしきものが浮かんできた。髪は長くさらさらしたストレート。頭を前から後ろに振って、髪を払う仕草が見えた。

「……何か、今女が髪を払ったような……」

「おめでとう」

名倉君はどこか愉快そうに言った。

「それじゃ次は土屋ね。おまえはテレビの上の辺りを見てみな」

「テレビねぇ……」

名倉君に促されて、土屋君は素直にテレビを一分ほどじっと見つめた。

「骸骨……かな。茶色くなった骸骨、そういうの」

「はい、正解」

こんな状況なのに名倉君はにっこり笑った。

視覚的にはっきりと見えてしまったことによって、巻田君と土屋君は自分達が置かれている状況がはっきりとわかってきた。

「なあ、名倉よ。もしかしてオレ達相当ヤバいんじゃないの?」

「ヤバいかもね」

しかし名倉君は明らかにこの状況を楽しんでいる。

もはや巻田君も土屋君も生きた心地がしなかった。さっきの酒盛りでビールをたらふく飲んでしまったことをかなり後悔した。トイレに立ちたいのだが、怖くて行けないのだ。

それは心理的な怖さではない。一度見てしまうと、視界の隅に彼ら以外の何かの姿がちらちら映るのだ。

トイレに行きたい。だが、怖いから付いてきてくれとは言えない。もじもじしながら一晩中タバコを吹かして気分を紛らわせていた。

夜明けが近い。辺りが明るくなり始めた。名倉君は少し目を凝らすと、緊張の解けた声で言った。

「あ、減ってきた減ってきた」

「何で?」

「わかんない。何か言ってるなぁ。でもよく聞こえないや」

時計をちらりと見た名倉君は何か納得したようだ。

「やっぱり日の出が近いからかねぇ」

減ってきているとはいえ、相変わらず巻田君と土屋君の目にもはっきりと例の霊が残っているのが見えている。名倉君は盛り塩に囲まれた布団の中にそろそろと潜り込んだ。

「まあ、彼らは浮遊霊だから。気にしないほうがいいよ。さ、そろそろ寝ようぜ。今ならまだ二~三時間は寝られるよ」

おい、名倉……と声を掛けたときには、早くも寝息が聞こえ始めていた。なんて寝付きのイイ奴だ。気にするなと言われても、窓の女もテレビの骸骨も消えていないのだ。

巻田君と土屋君は何となく眠れないまま、まんじりともせず朝を迎えた。

後日。何とはなしにあの不気味な修学旅行の一夜の話が出たとき、名倉君は思い返すようにこう言って笑った。

「……あー、あのホテルの部屋さ、霊道だったんじゃないかな。霊の通り道ってヤツ。武者やら公家やら女官っぽいのから、普通のスーツ着たサラリーマンまでうじゃうじゃだったから。長崎は被爆地だし、あの辺りって古戦場もあったからいかにもって感じだけど。ああ、怖い怖い」

……ていうか一番怖いのはおまえだよ。

巻田君と土屋君は、心の中でツッコミを入れた。

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