埼玉樹海の怪(埼玉県上尾市) | コワイハナシ47

埼玉樹海の怪(埼玉県上尾市)

正式名は上尾ふるさと緑の景観地。埼玉県上尾市原市二九四四ノ五に位置し、古くから埼玉最強の心霊スポットとか、第二の樹海と呼ばれる場所だ。

樹海のような鬱蒼とした樹木がある為か、自殺者が集まって来るとか、死体が多数発見された等の書き込みがネットでの紹介で見られるが、現実問題本当にそんな土地ならば、とっくに立ち入り禁止などの措置がとられる筈である。地元の人でもそれ程事件があるなどとは認識していないし、そんな呼ばれ方も知らないという人の方が多いだろう。

ただし、事件が無いとは誰も思っていない、という土地でもある。つまり、何かしらの凶事は過去に起こっているのも事実で、殺人、死体遺棄、白骨の発見、恐喝、強盗の類であるという話がある。

何度か肝試しに来た事はあるが、まぁ、広めの森という印象であった。

本書の別項で記載した痴漢山を知っている筆者は、それ程の広大さは感じられないし、様々な噂も、立ち入り禁止になっていない時点で、尾ひれが付いたものだろうと推測していた。何故ならば、この森は中学校、団地、大きな道路に囲まれた市街地にあり、規制出来ない山奥や崖上など、立地的な難易度は無い。広さとしても、予算が下りない程広大でもない。幾らでも規制の方法がある場所だからだ。

昼間、夏は子供達の虫捕りの場所として、普段は散歩や犬の運動コースとして使用する人が多く、のどかな雰囲気で、森の奥からは部活に励む学生達の掛け声が聞こえたり、ボールがバットに当たる乾いた音が、綺麗に響いたりと、どこが心霊スポットか? どこが埼玉最強か? と、思っていたのだが……

二○一四年の春、私は私事で長らく収録出来ていなかった、怪談動画の収録準備をしていた。いつもはスタジオ等を借りて行うのだが、久しぶりに復活という意味合いもあった収録の為、野外の、それも心霊スポットで収録しようと思い立ったのである。

場所を選定するが、中々良い所が見つからない。景観や場所が良い所は大体が遠方で、参加者の帰りの足が大変になる。近いと人気が皆無という訳にはいかず、静かに収録出来るかは保証が無い。いつもは、音声をなるべくクリアに撮るという事もあって、スタジオを借りるという事に落ち着くのだが、それではいつもと代わり映えしない。

悩んだ結果、この森を思い出し、夜ならば……という期待を込めて訪れたのだが、これが大当たりであった。まずは一九時近くに、森の入口となる、小道のすぐ近くのコンビニで買い物。その後、森と隣接した駐車スペースに車を停め、しばし様子を見る。すると、森の奥から背の高い外国人の男性二人が歩いて出てきた。え? 散歩か? などと見ていたのだが、何やら紙袋を渡したりしながら怪しい雰囲気である。

「販売禁止タイプの薬を売買してたのかな? それともBLというやつかな?」

女性キャストが居たので、あえてそんな馬鹿話をして場を和ませていたのだが、内心森を見て動揺していた。

夜は全然様相が違う。心霊スポットには、時間や季節で全く怖さが変わる場所があり、それはもう見事な程、ガラッと、セットチェンジでもしたかのように雰囲気が変わるのだ。雰囲気が変わるだけならまだしも、それに合わせて殺気というか、害意というか、こちらに対する敵意を強く意識させる場所は、撮影や収録をすると大体おかしな現象が起きる。

この森もそうで、緩やかな風に揺れて葉音を立て、真っ暗に塗り込められつつある埼玉樹海は、その名に相応しい威圧感を湛えている。夕方以降はあまり近所の人でも近寄らないという話も聞く。

森に少し入った所に、屋根付きの東屋があった。そこを収録拠点として、機材をセッティングする。参加者は自分の後ろに広がる闇の森を背負っての収録となった。

話し始めて一時間もしないうちから、森の奥から足音が聞こえたような気がして、何度もそちらに目が行ってしまう。他の出演者も同様で、振り返ったり、音に耳を澄まして動きが止まったり、怯えたりしている。

「まぁ、これだけ落ち葉もあるし、風も吹いてるしね、音がして当然だよ。歩いているように聞こえてるけど、小枝が折れたとか、落ちたとか、そういう事だよ」

そう言って場を取り繕う。しかし、それ以降は参加者の周りを回るように音が移動する。

「これは、完全に動いてますよね? 私達の周りを……」

某有名プロダクションに所属する、声優・ナレーターのカオシンちゃんが怯えている。彼女は台湾出身の才女で、器用に相手に合わせてトークしてくれるので、この復活収録を手伝ってもらう事になり、参加してくれたのだが、ホラーや怪談などに関しては、ごく普通の女子感覚だ。これ程本物の場所で収録など経験した事が無い。背中の一ミリ後ろは壁もなく、何も守ってくれる物が無い状況で、暗闇に包まれて喋るのは勇気が要った事だろうと、今でも申し訳なく思っている。

時間が午前零時に近付き、動画内で参加者が皆、お化けの時間がやって来た、等と話していた時の事だ。この日最大の怪異は、突然、意外な形で現れた。

我々が入って来た、森の入口の小道から、暗闇から滲み出すように、自転車に乗った中年の男性がゆっくり走って来た。その後ろに、未就学児と思われる女の子、男の子が、同じく子供用自転車に乗って男性の後を走っている。

「ああ、ちょっと早いカブトムシ捕りか?」

私は咄嗟にそう思って、すぐさま自己否定した。

動画の収録は六月である。埼玉では、幾ら早くてもまだカブトムシ等は出てこない。しかも、その親子らしき者達は、虫取り網や、虫かご、おびき寄せる為の餌等も持っていない。それに、夕方から一九時頃にかけて餌を仕掛けるのならば分かるが、午前零時に仕掛けに来るのも不自然だ。普通、午前五時位から、仕掛けの成果を確認しに来る時間だ。二時に仕掛けても、時間が短すぎる。

カオシンちゃんが最初に一団に気付き、小声で私に教えてくれた。それは、人が来たから一旦収録を止めますか? という意味で、聞いてくれたのだが。

私は目線で、このままカメラは回すが、会話は止めよう、という合図を送る。彼女は即座に理解し、一団が通り過ぎるまで、と声を落とした。

今思えば、不自然の塊のような親子だった。まず、そんな夜中に何の用でこの森を通るのか? また、我々が居るにもかかわらず、親と思われる男性は、子供達に、

「人がいるよ、ぶつからないように気を付けて」

等、声を掛ける事も無く、黙って通り過ぎた。子供達も、全く声を上げる事無く、不気味に黙って付いていく。その道の先は、中学校の校庭脇に続く小道だが、その先に人家は無い。一体どこから来て、どこに行こうとしているのか、全く不明の親子連れに遭遇してしまったのだった。

彼らが通り過ぎる間、殆ど音を聞いた覚えも無く、終始緊張状態で見つめていたので、姿が見えなくなった時には、安堵したというのが正直な感想だった。

「いや〜……何あれ? 全くこっちも見ないし、一言も喋らないし……どこ行くの? この時間に……ああ、気持ち悪い遭遇だったなぁ……」

私はそう言って機材の動きをチェックする。心霊スポットでこうした怪異に遭遇すると、決まってカメラや照明がおかしくなり、酷い時には録画が勝手に止まっていたりして、取材から戻って来て大パニックになる事もある。それ故、こうした時にはとにかく機材の調子を見る癖がついてしまった。

それにしても、あれが実在しない者だとしたら、やけに近くではっきり見たものだ、と思い返していると、固まっていたカオシンちゃんが、ひそひそと何か話し掛けてきた。

「え? 何? もう普通に喋って大丈夫だよ。見えなくなったし」

「あ、あの、あの自転車の人達、その、ライト点けて無かった……」

言われて思い出した。あの親子は、暗闇から滲み出るように、我々の照明の中に現れ、照明の外に去って行った。来る時も、去って行った時も、三人いて誰一人、ライトを点けておらず、そのまま埼玉樹海を走っていた。そんな事出来る筈がない、のだが……。

この時の様子は現在もYouTubeに上がっている。怪談図書館、埼玉樹海で検索を。

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